突然ですが『お化けのガスー』を知っているでしょうか。
『ガスー(Krasue)』と言うのはタイなどの東南アジア諸国に伝わるお化け(妖怪)のことです。女性の生首に内臓がぶら下がった姿で弱い光を発して浮遊します。
以前、岡山に遊びに来た(※※)タイ人の友達によると彼女のお父さんの故郷『カムぺーン ペッ(Kamphaeng Phet)』の村にガスーが出現した事があるそうです。
↑カムペーン ペッ県の位置
村人が松明を持って追い掛け回したらそれ以降は出てこなくなったのだとか。映画で描かれるガスーは赤く光る事が多いのですが実物は緑色に光っていたらしいです。
たくさんの村人が同時に目撃したのと、近距離(ガスーの顔が確認できるくらい)だったそうで、目撃情報としては有力な方かなと思います。
あと最近でもYoutubeにガスーの映像がアップされてタイでニュースになったりもしていますが、ガスーについての日本語の資料があまり無いみたいだったので調べました。
なお『ガスー』の言い伝えが諸説ある事や、日本語の資料がほとんど無いため翻訳を間違っている事が有るかも知れませんが以下ガスーについての説明です。
タイ語で『お化け』は『ピー(発音:→↑)』と言いますので、『ピーガスー(お化けのガスー)』とも言います。タイ語กระสือの発音(Krasue)をカタカナ標記にしている関係で『クラスー』とか『グラスー』、『カスー』等と標記される場合もありますが、ここでは『ガスー』で統一しています。
ガスーとは
ガスーの起源は特定が困難ですが、東南アジアを中心に伝わる民間伝承にその起源がみられます。タイの民俗学者プラヤー・アヌマーン・ ラーチャトン(Phraya Anuman Rajadhon)[1888-1969]によると、ガスーは浮遊する頭と鬼火(ひとだま)から構成されると提唱しました。(つまりラーチャトン説では内蔵はありません)
ガスーは若くて美しい女性の姿である事が多いです。
ガスーは日中は普通の人のように生活しますが、夜になると安全な場所に身体を隠し、頭と内蔵だけが空を飛び、家畜を襲って血や内蔵をむさぼります。
血や内蔵が手に入らなければ、排泄物(うんこ)や死肉を食べる事もあります。
タイでは夜中に外に洗濯物を干したままにすることは不吉とされます。日本でも最近でこそあまり言わないですが「夜風に当てるのは良くない」とか「魔が付く」、「夜干しは赤子泣く」などと不吉とされますね。
外に干したままの洗濯物が朝になって血や排泄物で汚れていたらガスーが口を拭った跡だと信じられています。
ガスーと妊婦
ガスーは出産前後の妊婦や胎児も襲い、特に後産(胎盤)が大好物です。ガスーは恐ろしい鋭い鳴き声を発しながら妊婦の家の周囲を飛び回ります。
その場合、妊婦の家族は家の周囲に棘のある植物の枝を置くとガスーは内蔵に棘が引っ掛かるのを嫌がるので侵入を防げるとも言われています。
また出産後は胎盤を遠く離れた場所の十分な深さに埋めなければならないと言われています。十分に深く埋めるとガスーは見つける事が出来なくなります。
もしもガスーに遭遇したら?
ガスーが出現した場合、一人で対峙するのは危険です。ガスーに対抗する為には松明(たいまつ)をかかげ、鉈(ナタ)で武装し集団で行動してください。(カムペーン ペッで村人が行った行動と同じですね)
ガスーを捕獲して殺すか、ガスーが夜明け前にどこに行くかを確認し身体を破壊します。一部の言い伝えでは発見した身体は燃やすのが良いとされています。
もしガスーの元の身体(首から下の身体)を隠したり破壊したりして、ガスーが元に戻れないまま夜が明けるとガスーは苦しみながら死に至ります。(また元の身体に赤い印をつけるとガスーは自分の身体を見つけられなくなります。これは原文がちょっと分かりにくかったので詳細不明)
ガハンについて
また、ガスーはガハン(Krahang)という男性の姿のお化けと同じ地域に住む事が多いとされています。
ガハンは2つの箕(ふるい)を使って飛び、股には長いすりこぎに乗って人々を驚かせるお化けです。
↑ガハンのGoogle画像検索結果
これは文化の違いですが、日本人の感覚からするとガハンは怖いというよりお笑い担当のお化けですね。一種の変質者さん??でもタイ人には怖いらしいですが。
東南アジアを中心に世界各地に伝わるガスー伝承
ガスーに類似する妖怪はタイ以外の東南アジアの国々でも伝わっていて、カンボジアではアープ(Ahp)、ラオスではカス(Kasu)、ミャンマーではケフィンと呼ばれます。
マレーシアやインドネシアの伝承にも類似の妖怪があり、ペナンガラン(Penanggalan)やペナンガル(Penangal)、レヤック、リーク(Leyak)、ポンティアナク(pontianak)等の名前でも呼ばれます。
ポンティアナク(マレーシア)
ポンティアナクも女性の吸血妖怪ですが、洗濯物を夜に外に干すと口を拭うのではなく獲物として目を付けられるとされています。
マライ(ベトナム)
ベトナム西部の山岳部族の民間伝承の一部にマライとしても伝わっています。
飛頭蛮(中国)
中国には飛頭蛮という似た妖怪も知られています。
マナナンガル(フィリピン)
フィリピンのシキホル島には妊婦につきまとうマナナンガル(Manananggal)という似た魔女の伝承があります。
マナナンガルは昼間は人間の姿をしていますが、夜になると下半身を切り離し、背中に蝙蝠の羽を生やして空を飛び人間を襲って血を吸うと言われていて共通点は多いです。
↑マナナンガルのGoogle画像検索結果
アメリカ大陸
北米先住民の中にもフライングヘッドと呼ばれる似た幽霊や、南米チリにはチョンチョンと呼ばれる大きな耳を羽ばたかせて飛び、病人の血を吸うとされる人間の頭の姿をした魔物の伝承や、ペルーではウミタという首が抜けて飛び回る妖怪も言い伝えられています。
日本のろくろ首はガスー?
また日本の妖怪ろくろ首は首が伸びる妖怪として知られていますが、江戸時代以前は首が飛び回る妖怪(抜け首)だったそうです(江戸時代にろくろ首の絵を描く際、抜け首と元の体が細い魂で繋がっているという表現を間違って解釈し、以降首が伸びる妖怪と伝わったとする説があります)
ろくろ首は多くが女性として描かれている事や、ろくろ首も日中は普通の人として生活している事、抜け首は夜中に人間を襲って血を吸うとされていた事など、ガスーとの共通点も多く元は同じ物だったのではないかという気がします。
このように世界中で言い伝えられ、共通点も見られるガスーはもしかするとただの言い伝えではないのかも知れませんね。
今でもタイではガスーを題材にした映画がたくさん作られる程、人気があります。
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(追記)
その後、僕がタイ旅行に行った時、友人にカムペーン ペッの村まで案内して貰えるように頼みましたが、ガスーの呪い?を理由に断られました。
また別のタイ人によると、タイのカンボジアとの国境近くのシーサケート県やスリン県へ行き、夜中森や畑を歩いているお坊さんに付いて行けばガスーが見えるんじゃないかと言っています。もしご興味ご関心がありましたらぜひ。もちろん殺されるかもしれませんので自己責任で。ちょっと交通の便が悪いのがネックですが…。
ガスーの映画3本『Krasue Kud Porb』、『Demonic Beauty』、『Krasue Valentine』を入手して、見てみました。